1. 能舞台の秘密(1)

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鏡板(かがみいた)

鏡板とは、舞台の正面バックに、松の木の絵が描かれています。あの松の木のモデルは、奈良にある春日大社の参道を登った、一の鳥居のすぐ右手の小高い所に、老松の木があります。これを「影向の松(ようごうのまつ)」と言い、これが舞台のあの松の木のモデルとされています。
この「影向の松」は、昔々日本全国に「疫病」が流行したとき、春日の大明神がこの松に降りて来られ、「萬歳樂」を舞って「疫病」の退散を祈念されたという「霊木」であり、爾来春日に参内する者は、この松の木の下で一芸を、披露しなければならないとされた。それが「おん祭り」の際には「松の下の式」として今日に伝えられています。

この形で芸能を披露すれば、舞台バックの松の絵に向けて演じることとなり、観客にお尻を向けての舞台となります。「神様にさえ見て頂ければ」という考えならばいいのですが、「観客」というスポンサーには一寸問題が残ります。そこで知恵を絞って考えた結果、演者はあくまでも「松」に向かって芸能を演じているつもりで、背面の「松」は「鏡」に写ったものとして、今日の能舞台の原型を作ったとのことです。故に 背面の松を「鏡板」と言うようになったとのことです。

昭和になってある歌手の方の名文句で「お客様は神様です」が有名になりましたが、能楽の世界ではもっと以前から、お客様を神様として松の木の前で芸能を披露してきたことが、解って頂けますでしょうか。

ついでに あの松は何故老松でなければならないのかを説明しておきますと、まず第一はモデルが「影向の松」という老松であったこと。次に、神様が「萬歳樂」を舞ったことから考えて、老松の様に太い幹で、枝が左右にはった安定感のある松の木でなければ、神様といえど舞楽は舞いにくいでしょう。また、松の木の幹は太くそして鏡板のセンターに位置していることがベターであります。舞台で「面」をつけると相当に視野が狭くなります。クルッと回ったとき、自分が今どの方向に向いているのかを判断するのに助かります。一方、林の様に老松が沢山あれば、今度はどの幹か判断に困ります。老松は孤高の木でなくてはなりません。